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「地域で暮らし続けられる仕事」をつくる──LULLが挑む、IT×地方創生の新たなモデル
2026年8月18日、株式会社LULLは、島根県飯南町および一般社団法人離島百貨店と地域活性化を目的とした包括連携協定を締結したことを発表した。
同社は、若者を中心とした人材育成に取り組み、未経験からITスキルを習得できる教育支援を行っている。今回の取り組みでは、地域おこし協力隊制度を活用し、地域課題の解決とIT人材の育成を組み合わせることで、地方における新たな働き方と持続可能な地域づくりを目指している。
経済報道テレビでは、株式会社LULL(ラル)新規事業開発部 地方創生課マネージャーの鈴木舞氏に、今回の協定に至った背景や、島根県飯南町で進める取り組み、地方創生にかける思いについて話を聞いた。
異業種からIT人材を育ててきたLULLが、なぜ地方創生へ?
LULLは、IT未経験者を積極的に受け入れ、独自のカリキュラムを通じて、クリエイターやエンジニアとしてのキャリア形成を支援している。
特徴の一つが、異業種からIT業界へ挑戦する人材を積極的に受け入れていることだ。飲食業やアパレル、保育士、公務員、警察官など、さまざまなキャリアを持つ人たちがITを学んでいるという。
LULLが重要視しているのは、ITを学ぶ以前より培ってきた経験だ。
鈴木氏:「全く何も知らずにIT業界に飛び込むことには皆さんは不安があると思いますが、ITはあくまで一つのスキル・技術です。今までの社会人の皆様が持っている経験は唯一無二なので、そこを大事にしながらIT業界に入っていただいて活躍していただくというようなサポート支援をしています」
LULLでは、人材育成と並行して、エンジニア同士の交流や学びの場となるコワーキングスペース「LULL TECH BEACH」も運営している。外部にも開かれたこの場所ではコミュニティづくりにも取り組んでおり、地方で活動する人や地方創生に関心を持つ人との接点も生まれていった。
一方、LULLにはITを学ぶため、全国各地から人材が集まっている。その中には、ITスキルを身につけた後、いつか地元へ戻って地域に貢献したいと考える人も少なくなかったという。
こうした社内外の人々との交流を通じて、LULLは地方が抱える課題にも目を向けるようになった。
鈴木氏:「ITは東京都心だけではなく、全国で必要なものです。コミュニティでさまざまな方と接する中で、地方が抱える人口減少や都市部との格差といった課題に対して、私たちに何かできることはないだろうかと考えたことが、地方創生に取り組む最初のきっかけでした」
地域で暮らし続けるために――「マルチワーカー」という発想
LULLが地方創生への取り組みを具体化するきっかけとなったのが、総務省との接点だった。
LULLが都心で取り組んできたIT未経験者の育成や、ITスキルを身につけた人材が将来的に地元へ戻り、地域に貢献できるような人材育成について総務省の担当者に説明したところ、紹介を受けたのが一般社団法人離島百貨店だったという。
離島百貨店との対話を重ねる中で、LULLが都心で培ってきた人材育成の仕組みは、地方でも展開できるのではないかという可能性が見えてきた。そこから約1年半にわたり、両者で具体的な取り組みについて構想を練っていった。
その中でキーワードとなったのが、「マルチワーカー」だ。
一般に「マルチワーカー」とは、複数の仕事や役割を組み合わせながら働く人材を指す。今回の取り組みでは、こうした働き方とITスキルを組み合わせることで、働きながらITスキルを学びたい若者が、地域でキャリアを築くことができる仕組みづくりに取り組んでいる。
取り組みの舞台として候補に挙がったのが、島根県飯南町だった。離島百貨店の代表が島根県出身で、地域とのつながりがあったことなどから、新たな取り組みを積極的に受け入れてもらえるのではないかと考え、飯南町長に構想を提案したという。
飯南町が抱えていた大きな課題の一つが、人口減少だった。若い世代が町外へ流出する一方、新たな若者を地域へ呼び込み、移住・定住につなげていくことも課題となっていた。さらに、移住した人が地域で暮らし続けるためには「仕事」が欠かせない。しかし、町内だけで新たな仕事を生み出していくことには限界もあったという。
こうした飯南町の課題と、LULLが培ってきたIT人材育成のノウハウを組み合わせる今回の構想を提案したところ、飯南町側からも賛同を得た。
鈴木氏:「飯南町だけで仕事をつくっていくことには限界があるという課題がありました。今回の取り組みを提案したところ、「ぜひうちの町をモデルとして一緒に実証していきましょう」と快く引き受けてくださいました」
島根県飯南町で直面した壁。「ITを入れれば解決する」ではなかった
飯南町での取り組みが始まったものの、すべてが順調に進んだわけではない。LULLが最初に直面したのは、これまでとは異なる取り組みについて、自治体の職員や地域住民から理解を得ることの難しさだった。
鈴木氏は、従来の地域活性化や地域おこし協力隊とは異なる取り組みであるからこそ、関係者に理解してもらうまでには苦労があったと振り返る。
それでも、活動開始から半年ほどが経ち、地域の中に入りながら一つひとつ関係を築いていくことで、徐々に理解を得られるようになった。現在では、町の人々も取り組みに理解を示し、積極的に協力してくれているという。
そうした地域との関係づくりを通じて見えてきたのが、目の前に見えている問題と、本当に解決すべき課題は必ずしも同じではないということだった。
鈴木氏:「課題を課題と思っていなかったり、「これでいいものだ」と思っていたりする方も多くいます。ホームページや日々の業務システム、業務効率化などについても、簡単に「これをやってください」と進めるのではなく、本当にそれが課題なのか、根本の問題なのかを一緒に気づいていくことが大切です」
地域が抱える本当の課題を見つけるには、地域の人々と会話を重ね、同じ地域で生活しながら関係を築いていく時間が必要になる。
LULLにとってITとは、目的ではなく課題を解決するための手段の一つだ。
鈴木氏:「人と人とで成り立っているものなので、ITはあくまで技術の一つしかありません。関係をつくりながら、本当に何が課題なのかを一緒に気づいていくことには時間がかかります」
例えば、農業の現場では人手不足や収穫期の忙しさなど、目の前にさまざまな問題がある。農薬のドローン散布や天候に関するシステムなど、ITを活用できそうな場面があったとしても、単にシステムを導入さえすれば課題が解決するとは限らない。
地域の人々との対話を通じて、「なぜ既存の仕組みではうまくいかないのか」「本当に解決すべき問題は何なのか」を探ることが、まず必要になる。
まだ飯南町が抱える課題のすべてを明確にすることができたわけではないという。だからこそ、現地で活動する地域おこし協力隊のメンバーが地域の人々と関係を築きながら、一つひとつ課題を見つけ、ともに解決していく活動を進めている。
現地に飛び込んだ若者たちの実感
では、実際に地域へ飛び込んだ若者たちは、島根県飯南町での暮らしや活動をどのように感じているのだろうか。
今回、現地で活動する君塚氏と宮本氏にも話を聞いた
東京で暮らしてきた君塚氏にとって、飯南町は当初「全く違う世界」だったという。しかし、初めて町を訪れた際、住民が温かく迎え入れてくれたことが印象に残った。
君塚氏:「東京では考えられないのですが、見知らぬ中学生の男の子からいきなり挨拶されたこともありました。そうした温かさやぬくもりを感じて、「ここだったら一人でも生きていけそうだな」と思うようになりました」
君塚氏が飯南町へ来る前に抱いていた「田舎」のイメージも、実際に生活する中で大きく変化したという。
君塚氏:「田舎に対して、最初は「人が少ない」「住みにくい」「閉鎖的」という印象を持っていました。しかし、飯南町に来てからは180度変わりました。外部の人を受け入れようとする姿勢があり、若者との交流も含め、世代を問わず交流してくださいます」
人口減少という課題だけを見れば、地域の将来を悲観的に捉えてしまうかもしれない。しかし君塚氏が現地で目にしたのは、人口が減少する中でも、地域を残していこうとする人々の姿だった。
君塚氏:「田舎は人口減少などの悪い面でフォーカスされがちですが、実際には、人口が減少する中でもみんなで頑張ろうとする姿勢が伝わってきます。そこをちゃんと残しつつ、次の世代にも引き継いでいけたらと思っています」
一方、島根県出身の宮本氏は現在、農業を中心とした活動に取り組んでいる。宮本氏にとって、農業もITも未経験からのスタートだった。
農業では草刈り機のエンジンのかけ方や安全面といった基礎から地域の人に教わり、ITについても、分からない言葉やエラーに直面しながら、周囲のメンバーや先輩に教わって一つずつ学んでいるという。そんな宮本氏が飯南町で感じているのが、若い世代が交流する場の必要性だ。
宮本氏:「田舎は人口減少などの悪い面でフォーカスされがちですが、実際には、人口が減少する中でもみんなで頑張ろうとする姿勢が伝わってきます。そこをちゃんと残しつつ、次の世代にも引き継いでいけたらと思っています。高齢者の方が多い一方で、若者も実際にはいます。ただ、若者が集まる場がありません。20代、30代の人たちが集まって情報交換をしたり、「こんな未来にしていきたい」と話したりできる場をつくっていけたらと思っています」
地域に飛び込んだ人材が、そこで暮らし、地域の人々から学びながら、自ら地域の課題や可能性を見つけていく――。こうした地域での取り組みは、島根県飯南町が初めてではない。LULLでは今回の取り組みに先立ち、沖縄県国頭村にも地域活性化起業人として人材を派遣している。
埼玉県から沖縄へ移住した社員は、知人もいない環境から活動をスタートした。まず地域の人々との関係づくりに取り組み、現在では観光プロモーションに関わるWebサイトの制作やマネジメントなどに携わっているという。
その社員の言葉で、鈴木氏の印象に強く残っているものがある。
鈴木氏:「本人が話していた中で印象的だったのが、「飛び込むことがすごく大事で、そこから得られるものは全然違う」という言葉です。チャレンジすることで得られるものは、その人だけの唯一無二のものになると思います」
島根県飯南町からモデルをつくり、他の地域へ
飯南町での取り組みは、まだ始まったばかりだ。
LULLがまず目指しているのは、地域おこし協力隊として活動するメンバーが、3年間の活動を通じて地域との関係を築きながらITスキルを身につけ、任期終了後も仕事ができる「マルチワーカー」としてキャリアを築いていくことだ。
鈴木氏:「この取り組みのゴールとしては、3年後にしっかりと仕事ができるマルチワーカーとして、協力隊のメンバーがキャリアを築いていくことです。まずはそこを確立することを目標としています」
その先に見据えているのが、飯南町での取り組みを一つのモデルとして確立し、他の地域へ広げていくことだ。若い世代が地域へ入り、そこで暮らしながら地域の課題と向き合い、ITをはじめとしたスキルを身につける。そして、任期が終わった後も地域で仕事を続けられる仕組みをつくる。
こうしたモデルを他地域にも展開することで、若者の移住・定住につなげるとともに、ITを活用できる人材が全国各地で活躍できる仕組みをつくっていきたいと鈴木氏は語る。
鈴木氏:「飯南町での取り組みを一つのモデルとして、他の地域にもこうした形を広げていきたいと思っています。このプロジェクトを通じて若い人たちに地域へ来てもらい、移住・定住の課題解決につなげるとともに、ITがより全国へ広がっていくような仕組みづくりに取り組んでいきたいです」
LULLが目指しているのは、単に地域へITを導入することではない。地域に入り、人と人との関係を築きながら本当の課題を見つけ、そこで暮らし続けられる仕事と人材を育てていくこと。島根県飯南町で始まった3年間の取り組みが、どのようなモデルへと育っていくのか。その挑戦は、まだ始まったばかりだ。
記事要約
- 異業種からIT人材を育成:LULLは、飲食やアパレル、保育士、公務員など多様な経歴を持つIT未経験者を受け入れ、クリエイターやエンジニアへのキャリア形成を支援。これまでの社会人経験を生かしながらITスキルを身につける人材育成に取り組んでいる。
- IT人材育成を地方創生へ:全国から集まった社員やコミュニティとの交流をきっかけに、人口減少や都市部との格差といった地域課題にも着目。離島百貨店との連携を通じ、IT人材育成の仕組みを地方へ展開する取り組みをスタートした。
- 「マルチワーカー」という新たな選択肢:島根県飯南町で地域おこし協力隊制度を活用し、地域で活動しながらITスキルを身につける仕組みを構築。任期終了後も地域でキャリアを築ける人材の育成を目指している。
- IT導入よりも「本当の課題」を見つける:現地で直面したのは、システムを導入するだけでは地域課題は解決できないという現実。地域住民との関係を築きながら、本当に解決すべき課題をともに見つけ、その手段の一つとしてITを活用することを重視している。
- 島根県飯南町から他地域へ:まずは3年間の取り組みを通じて、地域で仕事ができるマルチワーカーのキャリアモデルを確立。飯南町で得た知見を一つのモデルとして、将来的には他地域にも展開し、若者の移住・定住や全国でのIT人材活躍につながる仕組みづくりを目指す。
取材・文:青山幸正
企業概要
| 会社名 | 株式会社LULL |
|---|---|
| 本社所在地 | 〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3丁目10-13 TOKYU REIT渋谷RビルB1 |
| 事業内容 | WEBシステム開発事業 / インフラ・ネットワーク支援事業 / AI開発事業 / SES事業 / IT人材育成事業 / 一般派遣事業 / インキュベーション施設・コワーキングスペース運営事業 |
| 公式サイト | https://lull-inc.co.jp/ |
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