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日本語教育の「できる」を可視化する――EduTechJapanが目指す新たな評価のかたち
日本で学び、働こうとする外国人が増える中、「その人が実際に日本語で何ができるのか」を、どのように評価し、伝えていくのか。
日本語教育の現場はいま、大きな転換期を迎えている。これまで重視されてきた出席や在籍の確認だけでなく、学習者が「何をできるようになったのか」という教育の成果をより具体的に捉えることが求められる一方、細かな評価は教員の負担増にもつながる。
こうした課題に対し、教育現場の負担を抑えながら、学習者の「できること」をより分かりやすく評価する仕組みづくりに取り組んでいるのが、EduTechJapan株式会社(エデュテックジャパン)だ。
同社代表の井上氏は、日本語教師と日本語教育機関向けシステムの提案、その双方の経験を生かし、成績評価に関する仕組みを開発。評価ロジックに関する特許を取得し、その普及に取り組んでいる。
しかし、井上氏が目指しているのは、単なる教育現場の「効率化」ではない。 学校で学んだ学生が実際に何をできるのか。それを進学先や企業にも分かりやすく伝えることで、学ぶ側と受け入れる側とのギャップを減らす。
そして、その先に井上氏が掲げるのが、「日本のファンを増やす」という思いだ。
評価制度、特許、ITを通して、どのように人と人との距離を縮めようとしているのか。 井上氏に、日本語教育との出会いから、業界が抱える課題、そしてその先に描く未来について聞いた。
井上氏が日本語教育に携わるまで
EduTechJapan代表の井上氏が日本語教育の世界に関心を持つようになったきっかけは、製造業に勤めていた頃の海外経験だった。
大学卒業後、就職氷河期の終盤に三重県の製造業の会社へ就職。その後、仕事で台湾へ赴任した。勤務先の工場では、ベトナム人をはじめ、日本語を学びたいと考えている外国人と接する機会も多かったという。 この経験が、井上氏にとって大きな転機となった。
井上氏:「台湾から戻ってきてから、日本語教師になろうと思いました」
その後は、丸亀製麺で店長などを務めながら、日本語教師としても活動し、日本語教育との関わりを深めていった。
一方で、日本語教育の現場に携わる中で見えてきたのが、業界のIT化の遅れだった。井上氏は製造業時代、自らプログラムを組み、業務上の課題を解決してきた経験を持つ。その経験を生かし、日本語教育機関向けのシステムを販売する会社へ転職。各地の学校にシステムを提案し、IT化を支援する仕事に携わった。
そして、日本語教育業界が大きな変革期を迎える中で独立。特に成績評価に関する仕組みを、より幅広い人たちに活用してもらいたいという思いから、現在の事業を立ち上げた。
日本語教育はいま、大きな転換期に
井上氏によると、日本語教育機関をめぐる制度は2024年から大きく変化しており、新たな枠組みへの移行が進められている。
これまで日本語教育機関では、学生の出席状況や在籍確認などが重視されてきた。しかし制度の変化に伴い、評価の軸も「学生を適切に管理できているか」だけではなく、「どのような教育を提供し、学習者が何をできるようになったのか」という教育の質へと移りつつある。
こうした学習成果の評価に用いられる考え方の一つが、「日本語教育の参照枠」だ。多言語教育に関する海外の考え方なども参考にしながら、日本語学習者がどのようなことをできるのかという観点から、学習や評価のあり方を整理している。
この変化によって、教育の成果をより具体的に捉えられるようになる一方、現場には新たな課題も生じる。
従来とは異なる評価方法への対応と、増加する評価業務。新たな制度への移行にあたり、教育現場では「評価の質」と「業務負担」をいかに両立するかが課題となっている。
「何ができるか」を評価する難しさ
日本語教育の評価が「学習者が何をできるようになったのか」を重視する方向へ変わる一方、その能力を正確に把握することは簡単ではない。
現在、日本語能力を示す指標として広く利用されているものの一つに、日本語能力試験(JLPT)がある。試験結果によって日本語能力を一定の基準で示すことができる一方、井上氏は、試験の結果と実際のコミュニケーション能力との間にギャップが生じる場合があると指摘する。
試験で高いレベルと判定されていても、それだけで「実際にどの程度日本語を使ってコミュニケーションを取れるのか」まで把握できるとは限らないからだ。
一方、日本語教育機関の教員は、日々学生と接している。会話や授業、提出物などを通じ、一人ひとりが実際にどの程度日本語を使えるのかを把握しやすい立場にある。
井上氏は、こうした現場で把握している学習者の実態を評価につなげられることが、日本語教育機関の強みだと考えている。
しかし、ここでもう一つの問題が生じる。
学習者の能力を具体的な項目ごとに捉えようとすれば、その数は膨大になる。レベルが上がるほど確認すべき範囲も広がり、場合によっては100項目ほどに及ぶという。教員が一人ひとりについて、これらを逐一確認していくことは現実的ではない。より実態に即した評価を目指すほど、今度は教育現場の業務負担が大きくなってしまう。
そこで井上氏が考えたのが、学校が普段行っているテストや提出物、ルーブリックなどによる評価を生かしながら、より細かな「何ができるのか」という評価へつなげる方法だった。
学校側でつけた成績をもとに、細かな項目についても一定のロジックによって「できる・できない」を判定。評価の質を高めながら、現場の負担をどのように抑えるか。この課題に対する仕組みが、EduTechJapanが取得した特許へとつながっていった。
評価の負担を減らす仕組みを、広く使えるものに
EduTechJapanが現在、日本語教育機関向けに提供しているのが、成績評価のための「評価ロジック」だ。
特徴的なのは、一つの完成されたシステムだけを提供するのではなく、評価のロジックそのものを、さまざまなシステムで利用できるようにしている点にある。
井上氏が目指すのは、自社だけが仕組みを囲い込むことではない。
さまざまな学校やシステムで共通の評価ロジックが活用されることで、日本語教育業界全体で、学習者の「できること」をより分かりやすく示せるようにしたいと考えている。
教育とIT、双方を知ることが強みに
日本語教師と、日本語教育機関向けシステムの営業。その双方を経験してきた井上氏にとって、教育現場とITをつなげられることは大きな強みだ。
そのため、単に「学校から依頼されたシステムを作る」のではなく、教員が考えていること、学校として必要なこと、そしてシステムで実現できることを結びつけながら考えられる。
なぜ、特許を広く使えるようにするのか
井上氏が重視するのは、「自分たちが作った仕組みであること」ではなく、多くの教育機関や関係者に実際に活用されることだ。評価ロジックを自社だけで囲い込まず、さまざまなシステムで利用できるようにすることで、業界に共通する評価の土台をつくりたいと考えている。
学校の中だけで終わらない評価へ
そして、この仕組みが目指しているのは、学校内部の業務効率化だけではない。
日本語学校でどのような教育が行われ、そこで学んだ学生が実際に何をできるのか。それを学校の外にいる大学などの進学先や企業が理解することは、必ずしも容易ではない。そこで重要になるのが、具体的に「何ができるのか」を示す評価だ。さらに井上氏の仕組みでは、学校や企業など、それぞれのニーズに合わせて評価のあり方を調整することも想定している。
企業であれば「自社ではこういうことができる人材を求めている」、学校であれば「こうした力を持つ学生を育てたい」といった違いを、評価に反映しやすくする。そうすることで、採用後に「想定していたほど日本語でコミュニケーションが取れなかった」といったギャップが生じるケースを減らしていく。
評価を効率化することは目的ではなく、学ぶ側と受け入れる側がお互いをより正確に理解できるようにすることにつながっている。
「日本のファン」を増やすために
井上氏が日本語教育に携わるうえで、大切にしている考えがある。「日本のファンを増やす」ことだ。
井上氏:「日本が好きな方に来ていただいて、その方により日本を好きになってもらって帰っていただきたい」
単に海外から人を受け入れるという話ではない。日本に興味を持ち、この国を選んで来てくれた人が、日本語を学び、日本で生活する。その経験を通じて、さらに日本を好きになってもらうことが重要だと井上氏は考えている。
そのためには、外国人に一方的に日本へ合わせてもらうだけでは十分ではない。日本語を学ぶ仕組みを分かりやすくし、学校から進学、就職へと進んだ際のギャップを減らすなど、受け入れる日本側にも歩み寄る姿勢が必要になる。
井上氏は、日本語教師として働いた経験から、日本語教育の現場には優れた人材が数多くいると感じている。
一方、一人の教師が直接教えられる学生の数には限りがある。
井上氏:「プレイヤーがより輝ける場所を、私の方でなんとか作れないかと思っています」
自身が教師として前面に立つのではなく、得意とするITを通じて、日本語教育に携わる人たちがより力を発揮できる環境をつくる。それも井上氏が目指すものの一つだ。
必要なのは、一方が合わせることではなく「歩み寄ること」
外国人の受け入れをめぐっては、さまざまな議論がある。井上氏が重要だと考えているのは、「どちらかがどちらかに合わせる」という関係ではない。 日本に来る人だけに日本社会への適応を求めるのでも、受け入れる側だけが一方的に合わせるのでもない。
言葉を通じてコミュニケーションを取り、「ここまでなら、お互いにうまくやっていける」という場所を探していく。そこに、言語を学ぶ意味の一つがあるという。
井上氏自身、かつて台湾で生活した経験がある。海外へ行く意味は、単にその国の言葉を話せるようになることだけではないと感じている。
その土地で暮らす人が何を考え、どのような文化や習慣を持っているのか。自分たちとは異なる考え方があることを知り、「そういうことだったのか」と理解を広げていく。そうした相互理解を積み重ねていくことに、留学や言語を学ぶ意義があると井上氏は考えている。そして、井上氏にとってITは、そのために使うものだ。
井上氏:「基本的にはITはあくまで道具になります。いかに人と人とがコミュニケーションを取るかというところに、ITを使っていきたい」
評価制度も、特許も、ITも、それ自体が最終的な目的ではない。日本語を学ぶ人、教える人、そして受け入れる学校や企業。それぞれの間にある距離を縮め、人と人とがより理解し合えるようにする。EduTechJapanが取り組む日本語教育のDXは、そのための手段なのだ。
記事要約
- 日本語教育との出会い:EduTechJapan代表の井上氏は、製造業勤務時代の台湾赴任をきっかけに日本語教育へ関心を持った。日本語教師、日本語教育機関向けシステムの営業を経験し、教育現場とIT、双方の知見を生かして現在の事業を立ち上げた。
- 日本語教育の評価が転換期に:日本語教育を取り巻く制度が変化し、出席や在籍状況だけでなく、「学習者が実際に何ができるようになったのか」を具体的に評価することが求められている。一方、評価項目の具体化・細分化は、教育現場の負担増にもつながる。
- 「できること」を評価する仕組み:EduTechJapanは、学校で行われているテストや提出物、ルーブリックなどによる成績をもとに、より細かな「できる・できない」を一定のロジックで判定する仕組みを開発。評価の質と教育現場の負担軽減の両立を目指している。
- 学校の外までつながる評価へ:井上氏が目指すのは、評価の仕組みを自社だけで囲い込むことではなく、幅広く活用してもらうこと。学習者が「何をできるのか」を進学先や企業にも伝わりやすくすることで、学校・学習者・企業の間に生じるギャップの縮小を目指す。
- 「日本のファン」を増やす:最終的な目的はIT化そのものではない。日本語を学ぶ人、教える人、受け入れる学校や企業が互いに歩み寄り、理解し合える環境をつくること。井上氏はITをあくまでそのための「道具」と捉え、日本語教育を通じて「日本のファン」を増やしたいと考えている。
取材・文:青山幸正
企業概要
| 会社名 | EduTechJapan株式会社 |
|---|---|
| 所在地 | 〒226-0027 神奈川県横浜市緑区長津田2-33-1 |
| 事業内容 | 教育機関向けITソリューション支援・システム研修開発 |
| 公式サイト | https://edutechjapan.com/ |
| 特許 | 「日本語教育の参照枠」に準拠した成績連動型Can-do自動判定ロジックの特許(7887213) |
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