二次活用&記事掲載無料!
注目企業特集
「失われた30年を人事のDX化で取り戻す」HRBrainが仕掛けるAI×人的サービスの常識を覆すハイブリッド戦略
株式会社HRBrain
副社長 白井 崇顕様
- 目次
日本経済を長年蝕んできた「停滞」という病。その処方箋は、最新のテクノロジーと、泥臭いまでの人的サポートの融合にあるのかもしれない。
人的資本経営への関心が高まる中、独自の存在感を示しているのが株式会社HRBrainだ。
同社は「Power to the people」をパーパスに掲げ、タレントマネジメントを始めとし、組織診断サーベイや労務管理、採用管理等のHRテックを展開。だが、その実態は単なるツール提供のSaaS企業にとどまらない。
同社副社長・白井崇顕氏へのインタビューを通じて見えてきたのは、AIへの圧倒的なコミットメントと、顧客を成功へ導くための徹底的な「伴走」という、極めて戦略的な二兎を追う姿であった。本稿では、同社の事業戦略の核心と、日本企業の未来を塗り替える「想い」に迫る。
日本企業の「脳」を創る。HRテックの枠を超えた広範な領域展開
HRBrainが展開するサービスは、今や人事領域の全方位を網羅している。創業時からの主力であるタレントマネジメントシステムでは、社員名簿やスキル管理、人事評価をデジタル化し、一元管理を可能にした。さらに近年では、日本企業において重要性が増している「人的資本経営」を支えるべく、従業員エンゲージメントを可視化するサーベイ(調査)機能にも注力している。
特筆すべきは、直近の動向だ。2026年早々に、同社は採用領域の事業を株式会社Haulより譲受し、「Talent Lifecycle」の実現を目指している。入社前から退職に至るまでの「従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)」を最適化し、採用の高度化や内定承諾率の向上からその後の育成・配置までを一貫して設計できる体制を整えたのだ。
「人事に関するすべてを網羅したサービスを市場展開している」。白井氏がそう語る通り、同社の狙いは単一の課題解決ではなく、企業組織そのものを最適化するインフラとなることにある。
プロダクトをAIに「全振り」する。OpenAIジャパン長崎氏と描く未来
多くの競合がひしめくHRテック業界において、HRBrainが独自の地位を築いている最大の要因は、AIに対する並々ならぬ熱意だ。
白井氏は、同社の今後のプロダクト開発について「基本的にはAIの方に振り切っていく」と断言する。この言葉を裏付けるのが、同社の社外取締役にOpenAIジャパンの社長である長崎忠雄氏を招聘しているという事実だ。世界最高峰のAI知見を持つ人物を経営陣に迎え入れた目的は、単なるアドバイスを得るためではない。
経営レベルでAI活用を議論し、意思決定に反映させていく体制を整えている点も特徴の一つといえる。同社はAIを単なる「便利な追加機能」としてではなく、プロダクトのOSそのものを変えうる存在として位置づけている。AIへのシフトを加速させた背景には、スウェーデンの投資ファンド「EQT」の資本参画もある。EQTが持つグローバルなネットワークや知見、そして長崎氏の専門性を背景に、AI実装を強化する構えだ。
AIと「BPaaS」が実現する、他社が追随できない圧倒的差別化
しかし、テクノロジーへの傾倒が、同社の「血の通った支援」を疎かにすることはない。むしろ、AIを突き詰めるからこそ、テクノロジーの限界を補完する「人的サービス」の重要性が増している。
その象徴が、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ならぬ「BPaaS(ビーパース)」という独自のサービスモデルだ。通常、SaaSの導入において、システムの設計や初期設定は顧客側が担う。しかし、多くの企業がここで挫折する現実がある。
「テクノロジーだけでお客様を幸せにすることはできない」。白井氏のこの信念に基づき、HRBrainは設定から運用までを専門家が丸ごと請け負う。AIが高度化すればするほど、その使いこなしには専門的な知見が必要になる。AIという最先端の武器と、BPaaSという徹底的な伴走支援。このハイブリッドな提供価値こそが、同社の真骨頂である。
「数字を料理する」サービス部隊。真の人的資本経営とは何か
エンゲージメントサーベイ一つをとっても、同社のこだわりは深い。80問に及ぶ設問で「期待値」と「実感値」のギャップを抽出するが、同社はそこからさらに踏み込む。
「大事なのは数字の読み解き方。スコアが上がった、下がったという判断だけでは不十分だ」と白井氏は説く。例えば、評価制度への期待が10に対して実感が2であれば明確な課題だが、期待5・実感5でギャップがゼロの場合は、組織が「茹でガエル」の状態にあるリスクを示唆しているという。
このように、単なる調査結果の提示に留まらず、経験豊富なサービス部隊が「数字を活きる形に料理する」ことで、経営判断に直結するインサイトを提供する。これこそが、同社が目指す「戦略的人事」の具現化に他ならない。
UXへの執念と「必要な機能だけ」を届ける思想
他社からの乗り換えが増えている背景には、徹底したユーザー視点のUX(ユーザーエクスペリエンス)設計がある。
「不必要な機能はお客様に提供しない」。これがHRBrainの鉄則だ。多くのSaaSが多機能を謳い、UI上にボタンが溢れかえる中で、同社はあえて「必要な機能だけ」を使えるように制限する。これにより、最低限のクリック回数で目的を達成できる、極めてシンプルな操作性を実現した。
この思想の背景には、創業者の堀浩輝氏の経歴がある。サイバーエージェント出身の堀氏は、UXに対して極めて高いこだわりを持つ文化の中で育った。そのDNAが、プロダクトの使いやすさという圧倒的な強みとなって結実しているのだ。さらに、契約後もカスタマーサクセス部隊が顧客に「張り付く」ことで、運用の不安を払拭する。使いやすさと安心感という、B2Bプロダクトにおいて最も重要な価値を愚直に追求している。
人事を「会社の脳」に変え、日本経済を再生させる
白井氏が描く5年後、10年後の未来は、単なる自社の利益追求を超えたところにある。
「日本には、人事が欧米に比べて弱いという課題がある」と白井氏は指摘する。欧米ではCEO、CFOと並び、CHRO(最高人事責任者)が経営の視点で人材配置や育成を担うに留まらず、CEOや経営陣が適切な業務遂行をしているかまでを見定め、改善示唆まで行う重責である。対して日本の人事は、依然として勤怠管理や入退社手続きといったオペレーション業務が中心となっているケースが少なくない。
白井氏:「HRBrainという名前には、我々が人事の『脳(ブレイン)』になりたいという意味と、お客様の人事部門そのものを組織の『ブレイン』に育て上げたいという想いが込められている」
AIの進化によってオペレーション業務が自動化され、人事が戦略的な機能を担うようになれば、個の能力が最大限に開放される組織が増える。それが結果として、日本の「失われた30年」に終止符を打つことに繋がる。白井氏の言葉からは、人事という領域を通じて日本経済の基盤を再構築しようとする、強い使命感が伝わってくる。
本質にコストを割く。認知度よりも「顧客満足」を選ぶ勇気
驚くべきことに、HRBrainは近年、テレビCMや派手なタクシー広告といった大規模な宣伝活動をあえて控えている。
「以前は実施していたが、宣伝費にお金をかけるよりも、UXの向上やサポート体制、つまりお客様の満足度を上げるためにコストをシフトさせた」と白井氏は語る。
たとえ市場での認知度が低く見えたとしても、届けるべき相手に確実に価値を届け、顧客のエンゲージメントを高める。流行に流されず、プロダクトの本質で勝負するという決断は、経営者としての強い意志の表れと言える。
「指差しは自分」白井氏が説く自律的な組織文化
経営陣と現場の距離が近いことも、同社の強みだ。白井氏は自身の個室に閉じこもることなく、カスタマーサクセスや事業を譲り受けた組織の社員たちがいるデスクの真ん中に身を置く。情報の透明性にもこだわり、自身のカレンダーを全社員に公開し、毎週の活動や思考を全社へ発信し続けている。
そんな白井氏が社員に伝えている言葉が「指差しは自分」だ。何かが起きた時、他人のせいや他部門のせいに(他責に)するのではなく、まず自分に指を向け、「自分に何ができるか」を考える自律的な姿勢を求めている。
管理で人を動かすのではなく、個の能力を「開放」する。情報の透明性とフラットな関係性は、個々の社員が市場や顧客と向き合い、自ら成長していくための土壌となっている。
若者への提言。コンフォートゾーンを脱し、海外へ飛び込め
インタビューの終盤、白井氏は次世代を担う若者たちへ、自身の経験に基づいた熱いメッセージを送った。
「とにかく3年海外に行け」。これが白井氏のリアルな提言だ。
日本という国は居心地が良く、守られている。しかし、その環境に安住していては、真の成長は望めない。白井氏自身、多感な中学・高校時代をアメリカのデトロイトで過ごした。当時のデトロイトは決して安全な場所ではなく、人種差別や言葉の壁、治安の悪さに直面し、日々苦労の連続であったという。
白石氏:「その逆境があったからこそ、今の心の強さがある。若いうちに、自分を強制的に追い込み、作り直す環境に身を置いてほしい」
30歳を過ぎ、役職や家庭を持つと、どうしても「守り」のフェーズに入らざるを得ない。だからこそ、守るものがない若いうちに、外の世界で自分を磨き上げることが、将来の力強いリーダーシップに繋がるのだと説く。
テクノロジーと人の想いが、未来を創る
HRBrainの挑戦は、単なるビジネスの域を超え、日本企業のあり方そのものを問うている。AIという最強の武器を経営の核に据え、プロダクト開発をそこに全振りしながらも、同時に「人」による伴走支援を徹底する。このバランス感覚こそが、同社の強さの源泉だ。
人事が会社のブレインとなり、働く一人ひとりの力が解放される社会。HRBrainが描き出すその未来図は、閉塞感の漂う日本経済にとって、大きな希望の光となるはずだ。
※ 2023年11月、EQTはHRBrainの過半数取得(majority stake)に合意したと発表している。
https://www.hrbrain.co.jp/news/20231127
※ 2024年5月、OpenAI Japan合同会社 代表執行役員社長の長﨑忠雄氏が社外取締役に就任したと発表。
https://www.hrbrain.co.jp/news/20240509/
※ 2026年1月、採用領域のさらなるサービス強化を目的に、採用関連事業を株式会社Haulより譲受したと発表。
https://www.hrbrain.co.jp/news/20260115/
記事要約
- 広範なHR領域の網羅:タレントマネジメントから人的資本経営のサーベイ、採用事業の譲受まで、入社から退職までの全工程をカバー。「Power to the people」の実現を目指す。
- 経営レベルでのAIコミット:OpenAIジャパン社長の長崎氏を社外取締役に迎え、プロダクト開発を「AIに全振り」する戦略を推進。経営陣が直接AI活用を主導している。
- ハイブリッドな提供価値:AIによる高度な自動化と並行し、導入・運用を代行する人的支援「BPaaS」を提供。テクノロジーを使いこなせない顧客をゼロにする体制を整えている。
- 「戦略的人事」への変革:日本の人事をオペレーション業務から解放し、経営判断に寄与する「戦略的ブレイン」へと進化させることを支援。
- 自律的な組織文化と若者への提言:「指差しは自分」を合言葉に自律性を重視。若者にはコンフォートゾーンを脱し、海外の逆境で自分を鍛え直すことを推奨している。
取材企業の概要
- 企業名
- 株式会社HRBrain
- 住所
-
〒108-0073
東京都港区三田3-5-19 住友不動産東京三田ガーデンタワー5F
新着記事
-
「デジタル赤字」と「労働人口減少」に挑む——RE-X竹内氏が語るAI×OSS時代のITコンサル戦略
株式会社RE-X 代表取締役 竹内一成様 目次 「大企業病」への違和感と、テクノロジーへの純粋な憧れ 「経営者の体」に馴染ませるための慎重な助走期間 「怠惰の合理性」と「哲学」が導く意思決定 日本経済が直面する「二つの崖 […] -
1.5兆円の廃棄ロスを利益へ。ZAI株式会社が「はざいっぽ」で挑む、事業活動の負債を資産に変える“静かなる革命”
ZAI株式会社 代表取締役 神賀 英悟様 目次 現場で捨てられる「職人の給料」に、かつての親方は憤った 年間1.5兆円のロスを削減し「汗をかく人」に利益を還元する 業界の壁を超え、オフィスワークや製造業へ広がる「無駄ゼロ […] -
障害者雇用を「福祉」から「戦力」へ。A型事業所×ビジネスBPOが拓く新しい可能性
少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化する日本において、障害者雇用は単なる「法的義務」を超え、企業の持続可能性を左右する重要なテーマとなっている。しかし、その実態に目を向けると、提供される仕事の多くは雇用する側の都合から軽作業に留まり、働く側のスキルアップやキャリア形成が阻害されている現状がある。 -
企業の「心のインフラ」を再構築する——株式会社プラスパが提唱する「マインドフルネス」と「プラス思考」の真髄
目まぐるしく変化する現代社会において、メンタルヘルスの重要性はかつてないほど高まっている。特に重責を担う経営者や決裁者層のビジネスパーソンにとって、「いかに自分を整えるか」は持続可能な成長のための重要なスキルといえる。 -
エンジニアが輝く環境づくりとAIへの挑戦。孤立する現場をなくす、CLINKS河原浩介の信念
ITインフラを支えるエンジニアという職業は、現代社会において欠かせない存在だ。その仕事に魅了され、自らも技術者として歩んできたCLINKS(クリンクス)株式会社の代表取締役、河原浩介氏。しかし、彼が四半世紀前に目にしたのは、エンジニアがやりがいを感じながらも、働く環境の歪みによって孤立していく業界の姿であった。
