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医療機器の貿易赤字2兆円に挑む──サナメディが埋める医療イノベーションの「ミッシングピース」とは
サナメディ株式会社
代表取締役 内田 毅彦様
- 目次
日本の医療機器分野は、日本企業の海外生産品が含まれているものの長年輸入超過が続き、近年では2兆円を超える規模の貿易赤字を抱える。この構造的な課題に対し、医師として医療機器を扱ってきた経験に加え、米国FDAでの審査官経験、さらにグローバルメーカーでのキャリアを武器に、真っ向から挑んでいる人物がいる。サナメディ株式会社の代表取締役、内田毅彦氏だ。
「日本発の医療イノベーションを、一つでも多く世界へ届けたい」と語る内田氏。同社が掲げる、医療機器開発における「オールインワンの支援体制」とは何なのか。その独自のビジネスモデルと、底流にある経営者の信念に迫る。
医師が直面した「機会損失」という原体験
内田氏の起業の原点は、日本の医療現場と、そこを取り巻く産業構造への危機感にある。日本は高い医療水準と技術力を持ちながらも、医療機器産業においては世界の後塵を拝している。米国の圧倒的な強さに比べ、日本のトップ企業ですら世界ランク30位以内に入るのが困難な状況だ。
内田氏:「日本はものづくりが上手で、技術も医療水準も高い。本来なら世界をリードしていても不思議ではないはずなのに、実際には巨額の貿易赤字を抱えている」
この現状を、単なる数字の問題ではなく、救えるはずの患者や活用されるべき技術が埋没している「機会損失」であると捉えたことが、医療機器開発に興味を持つきっかけとなった。
その問題意識が確信に変わったのは、米国の食品医薬品局(FDA)での勤務時代だ。医療機器の審査官として、世界の最先端技術が製品化されるプロセスを目の当たりにした内田氏は、その後、グローバル大手であるボストン・サイエンティフィック社へ身を投じる。世界をリードする企業がどのように医療機器を作り上げているのかを内側から学び、約4年間の経験を経て一つの結論に達した。
内田氏:内田氏:「アメリカ企業でできることは、日本企業でも必ず成し遂げられるはずだ」
医療イノベーションの「ミッシングピース」を埋める
日本に足りないものはアイデア(シーズ)そのものではない。大学や企業には優れた技術の種が数多く存在する。しかし、それを実際の事業に結びつける「商業化のプロセス」において、決定的な「ミッシングピース(欠けているピース)」があると内田氏は分析した。
医療機器の開発は、一般的な製品開発よりもはるかに複雑な工程を辿る。製品の試作だけでなく、品質基準のテスト、動物実験、臨床試験(治験)、承認申請、さらには保険償還の手続き、そして最終的な販売戦略まで、極めて高い専門性を要するステップが幾重にも重なっている。
内田氏:「各プロセスに専門家はいるが、それらを『オールインワン』でサポートできる存在がいない。事業化というものは、プロセスの中に一つでも『0』があれば、掛け算で結果が『0』になってしまう。物だけが良くても、あるいは営業力だけがあっても、医療機器としての成功はあり得ない」
この「0」を作らないための包括的な手当てこそが、サナメディの最大の強みである。同社は、個別のノウハウを持つ人材の確保に加え、組織としてトレーニングを積み、仕組み化することで、属人的になりがちな開発プロセスを安定的に回す体制を構築している。
コロナ禍がもたらした「転換点」と経営判断
順調に歩みを進めていた同社にとって、新型コロナウイルスのパンデミックは大きな試練となった。当時、同社が関わっていた心臓手術関連の医療機器は、海外約35カ国で販売されていた。しかし、コロナ禍によって世界中で手術が中止される事態に陥る。
そこで起きたのは、既存の治療法から「カテーテルによる代替治療」への急速なシフトだった。手術ができない状況下で、患者に最善を尽くすため、それまで限定的に使われていたカテーテル治療が一気に普及し、プラクティス(診療慣行)そのものが変わってしまった。
「主力事業が大きなインパクトを受けたことで、事業計画、ひいてはエグジット(出口戦略)の計画も変更を余儀なくされた」と内田氏は振り返る。しかし、この危機は同時に会社のあり方を再定義する機会ともなった。
投資家構成を見直し、大規模な自社株買いを敢行。短期的なエグジットを最優先にする見方から、会社の持続的な成長を地に足をつけて考えるフェーズへと重心が移った。「会社がどこへ向かうべきかを深掘りできたことは、一つの大きなきっかけになった」という言葉からは、逆境を糧に変える経営者の強かさが伺える。
「確率論」を超えて。モデルの変革と資金力への挑戦
医療イノベーションの世界は、成功確率が極めて低い過酷な領域だ。内田氏も、数多くの案件に取り組んでも実を結ぶのはごく一部だと語る。内田氏によれば、サナメディが介在することでその確率は飛躍的に高まるものの、それでも失敗のリスクをゼロにすることはできない。
内田氏:「10個やって3個当てられるようになれば、それは驚異的な成果だ。しかし、残りの7つは失敗する。そのためには、10個分の挑戦を支える『燃料(資金)』が必要になる」
当初のモデルではサナメディ自身がポートフォリオとして開発を進めていたが、現在は「ポートフォリオカンパニー(スタートアップ)」を個別に立ち上げ、それぞれで資金調達を行うモデルへと変革を遂げている。これにより、より多くのイノベーションを同時に、かつ柔軟に支援できる構造を作り上げた。
内田氏は自らを「裏方」と定義する。「画期的なものを発明した」と表に立つのではなく、発明者の情熱を裏から支え、粛々と、粘り強く具現化していく。その過程は地味で、忍耐を要するものだが、それこそが本質的な価値提供であるという矜持がそこにはある。
貿易赤字ゼロ。野望の先にある日本の未来
内田氏に「野望」を問うと、迷いなく返ってきたのは「日本の医療機器における貿易赤字をゼロにする」という壮大な目標だ。
内田氏:「赤字解消に対する貢献度でナンバーワンと言われる会社になりたい。我々が何らかの形で関与した製品・事業が市場の相応の割合を占める存在になれれば、それは素晴らしいことだ」
起業を目指す人々や、現状に挑戦するビジネスマンに対し、内田氏は自身の経験から三つのアドバイスを送る。
第一に、リスクを取って「まずはやってみる」こと。行動しなければ成功の確率はゼロだ。 第二に、無謀に突き進むのではなく、先駆者の下で最低限のトレーニングを積み、準備を整えること。 第三に、もしダメだと判断したなら、すぐに次の道へ進む切り替えの速さを持つこと。
石橋を叩きながらも、決断の瞬間には大胆に。そのバランス感覚こそが、医療という高度な規制と生命への責任が交差する領域で、イノベーションを実現するための鍵となる。
サナメディが描く未来は、日本の技術が「医療機器」という形を伴って世界を救い、その成果が正当に国内へと還流する循環社会だ。その挑戦は、今も静かに続いている。
※ 医療機器の貿易赤字について
厚生労働省の「薬事工業生産動態統計」によると、日本の医療機器の輸出額に対し輸入額が大きく上回る構造が続いており、近年の貿易収支は約2兆円を超える規模の赤字で推移している。特に治療用機器(血管内カテーテルや人工関節など)における海外製品への依存度が課題となっている。
● 出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」
記事要約
- 創業の背景と原体験:日本の医療機器産業が抱える巨額の貿易赤字と「機会損失」に危機感を抱き、米国FDA審査官やグローバルメーカーでの経験を経て、日本発のイノベーションを実現するために起業した。
- 最大の強み:医療機器開発における複雑なプロセス(試験、承認申請、保険償還、販売等)を「オールインワン」でサポートできる点。掛け算で「0」を作らない支援体制が、事業化の成功確率を高める。
- 経営の転換点:コロナ禍による手術の中止とカテーテル治療へのシフトにより、主力事業が停滞。これを機に株主構成を見直し、短期的なエグジットではなく、長期的な成長を見据えた経営へと舵を切った。
- 今後の課題とモデル変革:医療イノベーションには膨大な資金(燃料)が必要。自社単体での開発から、スタートアップを個別に組成して資金調達を行うモデルへ移行し、多産多死の確率論に立ち向かっている。
- 理想像と野望:社会から「地味だが本質的で、すごいことをやっている」と評価される企業を目指す。医療機器の貿易赤字解消に最も貢献する企業を目指している。
取材企業の概要
- 企業名
- サナメディ株式会社
- 住所
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〒103-0023
東京都中央区日本橋本町二丁目3番11号
日本橋ライフサイエンスビルディング 601号室
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