注目企業特集
AI時代でも価値が残る理由とは?エビデンス時代に求められる専門性——MedInfo株式会社の医学論文検索サービスと成長戦略
MedInfo株式会社
代表取締役 毎熊 誠一郎様
- 目次
医学の進歩は、膨大な情報の積み重ねによって支えられている。しかし、日々刻々と更新される膨大な医学論文の中から、特定の症例や治療に直結する一編を探し出す作業は、多忙を極める臨床医にとって大きな負担である。この「情報の海」から真に価値ある知見を掬い上げるべく、独自の検索技術と医学的知見を武器に立ち上がったのが、MedInfo株式会社である。
代表取締役の毎熊 誠一郎氏は、大手製薬会社での長年のキャリアを経て、定年退職という節目を機に起業の道を選んだ。組織の看板を下ろし、個人の技術だけで勝負する決断の裏には、どのような「想い」と「挑戦」があったのか。同氏の歩みと、MedInfoが提供するサービスの真価に迫る。
製薬会社時代に培われた「エビデンスへの誠実さ」
MedInfoの主要事業は、医学論文の検索・調査代行である。一般には馴染みの薄い分野かもしれないが、現代医療の根幹を成す「EBM(根拠に基づく医療)」において、その役割は極めて重要だ。
毎熊氏の原点は、製薬会社時代の経験にある。当時、製薬会社の顧客である医師からは、製品や疾患に関する多種多様な質問が日々寄せられていた。
毎熊氏:「製薬会社として医師の疑問に答える際、単に自分たちの考えを述べるだけでは不十分です。科学的に裏付けられた、いわゆる『エビデンス』と呼ばれる信頼性の高い情報を提供することが求められていました」
膨大な医学論文を読み解き、科学的な根拠を提示する。そのプロセスで培われた「情報の真偽を見極める目」と「検索の技術」が、現在の事業の核となっている。独立後、顧客層は医師個人だけでなく、その間に介在する製薬企業や医療機器メーカーへと広がった。現在、MedInfoは神奈川県藤沢市を拠点に、医薬・薬学分野の学術情報リサーチサービスを提供している。
40代からの夢を定年後に形にする——「小さく始める」起業のリアル
毎熊氏が独立を意識し始めたのは、40代の頃だったという。しかし、当時は家族を養い、子供を育てるという責任があった。
毎熊氏:「独立したい気持ちは40代から持っていましたが、やはり家族もいますし、なかなか踏ん切りがつきませんでした。定年を迎え、子供も大きくなって少しリスクが取れるようになったことが、起業に踏み切った一番の理由です」
再就職という選択肢もあったが、数年で再び雇用契約の終了に直面するリスクを考えれば、自分の技術で勝負する道が最も合理的であると考えた。こうして毎熊氏は、自身の専門性を武器に、パソコン一台で完結する「個人事業主」として新たな一歩を踏み出した。
毎熊氏:「大手製薬会社という看板があったからこそ、これまでは需要があったのではないか。独立した自分に仕事が取れるのか。ビジネスとしての筋が良いかどうかが、全くの未知数でした」
そのため、毎熊氏は「1年でお客がつかなかったら廃業する」という期限付きの背水の陣を敷いた。設備投資や雇用という固定費リスクを抑え、まずは「小さく始める」という堅実な戦略を採ったのである。
ギリギリの1年目に舞い込んだ「運命の1件」
起業から1年が経過しようとする頃、事態は動き出す。ほぼ諦めかけていたタイミングで、思わぬところから依頼が舞い込んだのである。これが初の売上となり、事業継続の希望となった。
毎熊氏:「その後も右肩上がりに伸びたわけではなく、1件終われば仕事がなくなる、という波の繰り返しでした。今でも安定しているとは言えませんが、3年目に大きなお仕事をいただき、それを機に法人化を決意しました」
この不安定な時期を乗り越えられたのは、自身の提供する「医学論文検索」というスキルの希少性を確信していたからに他ならない。
「検索技術」×「医学的専門性」の両輪が生む独自価値
MedInfoの最大の強みは、単なる検索作業にとどまらない「アウトプットの評価力」にある。
毎熊氏は、医学情報の調査には2つの要素が不可欠だと語る。1つは、適切なデータベースから必要な情報を引き出す「検索技術」。もう1つは、得られた論文の内容を理解し、その妥当性を判断する「医学的バックグラウンド」である。
毎熊氏:「例えば、特定の症状を持つ患者に対する最適な治療法を調べようとしても、検索キーワードの選び方一つで結果は大きく変わります。ここに技術の差が出ます。そして、出てきた結果が本当に顧客の知りたい情報なのかどうか、論文の内容を読み解く力が必要です」
図書館の司書のような検索のプロは医学知識が不足している場合が多く、一方で、医師のような医学の専門家は体系的な検索技術を持っていないことも少なくない。この「両輪」を兼ね備えているからこそ、MedInfoはトップレベルのプロフェッショナルからも信頼される存在となっている。
毎熊氏:「大学教授という、いわばプロ中のプロから『自分でも知らないような情報を見つけてくれてありがとう』と感謝され、食事に招待されたこともあります。専門家から感謝されることは、我々にとって最大の誇りです」
AI時代の到来と、人間にしかできない「信頼の保証」
急速に発展するAI技術は、論文検索や要約の分野にも大きな変化をもたらしている。毎熊氏はこの現状を冷静に見つめている。
毎熊氏:「論文検索はAIが最も得意とする分野の一つであり、単純に考えれば人間の仕事は減っていくでしょう。しかし、AIのアウトプットを評価し、その信頼性を保証できる人間の価値は、逆に高まっていくのではないかと考えています」
AIを使えば作業時間は短縮できるが、最終的な情報の正確性を担保し、ビジネスや医療の現場で「使える」形にするには、依然として高度な理解力と経験が必要とされる。時代の波に乗り遅れないよう最新技術を注視しつつ、市場のニーズがどこへシフトしていくのかを見極める姿勢を崩さない。
組織化への展望と、潜在顧客へのメッセージ
現在67歳の毎熊氏は、70歳を一つの節目として、組織の拡大を視野に入れている。
毎熊氏:「今の事業だけにこだわらず、スタッフを雇用する規模に成長させたい。業態を変えながら、より多くのビジネスチャンスを追い求めていきたい」
これまでは「知り合いをビジネスに利用するようで気が引ける」と、自身の人脈を活用することを避けてきた。しかし、認知度の向上が長年の課題である現在、今後は既存客へのリピート提案やリファラル(紹介)の強化、さらにはブログやメルマガ、SNSを通じた積極的な情報発信に舵を切ろうとしている。
毎熊氏:「医学情報の収集とその価値は、まだ十分に認知されているとは言えません。専門機関にアウトソースすることで、社内のリソースを最適化できるという利便性に気づいてほしい」
エビデンスという光で医療の現場を照らし続けるMedInfo。一人のベテランが勇気を持って踏み出した一歩は、今、組織としての新たなステージを迎えようとしている。
※ EBM(根拠に基づく医療)の定義と普及
現代医療の標準であるEBMは、厚労省系資料でもEBMの考え方が解説されている。
厚生労働省eJIM |「根拠に基づく医療」(EBM)を理解しよう
記事要約
- 事業内容:医学・薬学分野に特化した論文検索、学術調査代行サービスを提供。製薬会社や医療機器メーカー、医師を主要顧客とする。
- 創業の背景:代表の毎熊氏が製薬会社を定年退職後、自身の専門性を活かして60代で起業。40代からの独立の夢を「小さく始める」形で実現させた。
- サービスの強み:高度な「検索技術」と、論文内容を的確に評価できる「医学的なバックグラウンド」を併せ持ち、信頼性の高いエビデンスを提供できる点。
- 経営の課題と挑戦:案件の波がある中での経営安定化と、認知度の向上が課題。今後はSEOやSNS、メルマガ、人脈を活用した営業を強化する方針。
- 今後のビジョン:70歳を目処にスタッフを雇用できる規模へ拡大を目指す。AI技術を注視しながら、情報の信頼性を保証する専門家としての価値を追求する。
取材企業の概要
- 企業名
- MedInfo株式会社
- 住所
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〒251-0033
神奈川県藤沢市片瀬山4-24-13
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