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ソフトウェアが製品の命運を握る時代の「品質」とは。技術者集団エクスモーションが描く、AI時代のモノづくり再定義
株式会社エクスモーション
常務取締役 芳村美紀様
- 目次
日本の基幹産業である自動車をはじめ、航空機、電子体温計、さらにはスマート便座に至るまで、現代のあらゆる製品の中核を担っているのが「組み込みソフトウェア」である。しかし今、この開発現場はAIの台頭という歴史的な「転換期」に直面している。
「人がプログラミングを全くしなくなる時代が、すぐそこまで来ている」
そう語るのは、株式会社エクスモーションの常務取締役、芳村美紀氏である。創業から現在、そしてAIがもたらす未来に対する同社の「想い」と「挑戦」を、芳村氏への取材から紐解く。
エンジニアが、エンジニアのために作る。コンサルティング特化の原点
エクスモーションの創業は2008年。当時の自動車開発はまだガソリン車が前提の時代であったが、同社はすでに「ソフトウェア開発の複雑化」という未来を明確に見据えていた。
背景にあったのは、複写機(コピー機)業界での経験である。多機能化が先行していた複写機業界では、複雑な開発を制御するための「モデリング」や「プロセス改善」といった手法が他業界に先駆けて進化していた。この知見を自動車など他業界へ波及させ、日本のモノづくりをより良くしたいという想いが、創業の大きな動機となった。
一方で、組織のあり方についても強い信念が存在した。芳村氏によれば、創業メンバーが以前所属していた環境では、コンサルタントがSIer(システムインテグレーション)の報酬体系やビジネスモデルに引きずられてしまうという課題があったという。「それならば、コンサルティングだけに特化した、優秀なエンジニアが自分たちのために働ける会社を作ろう」という決意が、エクスモーションの出発点となった。
芳村氏:「ソフトウェアはハードウェアと違って目に見えないものです。品質が良くても悪くても、画面上には文字が並んでいるだけ。私たちはその見えないものを可視化し、複雑なものをシンプルに解き明かしていく。それが私たちの存在意義です」
その根底にあるのは、エンジニアとしての純粋な知的好奇心と、技術への深いリスペクトである。
リーマンショックという荒波を「未来への投資」に変えた決断
順風満帆なスタートかと思われたが、設立直後の2008年9月、世界をリーマンショックが襲った。グローバル展開する大手メーカーを主要顧客とする同社にとって、駆け出しの時期に訪れた案件獲得が難しくなる局面は大きな不安要素となった。
しかし、彼らはここで立ち止まらなかった。案件の獲得が困難な時期を、あえて「投資の期間」と割り切る決断を下したのである。自社が持つ高度なナレッジを体系化し、誰でも学べる教育・人材育成コンテンツとして整備することに心血を注いだ。
芳村氏:「請け負って開発をする企業は数多くありますが、開発の『やり方』そのものをコンサルティングできるプレイヤーは極めて少ないという自負がありました」
この独自のポジショニングを不況下で磨き上げたことが功を奏し、その後同社のビジネスは約1年で軌道に乗った。逆境をただ耐えるのではなく、次に来る波に備えた「仕込み」の期間に変えたことが、今日の成長の礎となっている。
AI時代、開発者から「コードを書く作業」が消える日の付加価値
現在、エクスモーションは創業以来の、そしてソフトウェア史上最大の転機を迎えている。それは、生成AIによる自動プログラミングの急速な普及である。
従来は人がコードを書く工程が中心だったが、生成AIの普及でその比重が変わりつつある、と芳村氏は見る。人がプログラミングを全くしなくなる時代が、私たちの想像を上回るスピードで近づいていると、芳村氏はこの変化を冷静に、かつ前向きに捉えている。
人間がコードを書く必要がなくなったとき、エンジニアの価値はどこに残るのか。エクスモーションはその問いに対し、「品質」と「正しさ」の担保という答えを用意している。生成AIで実装のハードルが下がる一方、人命に関わる自動車や医療関連機器において「そこそこの品質」は許されない。AIが生成したものの妥当性をどう判断し、どうすれば圧倒的な生産性と高い品質を両立できるか。その「新しい開発の形」を設計することこそが、同社の次の使命である。
手段が変わっても、「何を作るべきか」「それは本当に正しいか」を問い続ける人間の知恵こそが、これからの時代における究極の付加価値になる。同社は、AIを競合として恐れるのではなく、AIを使いこなすための最強の羅針盤となることを目指している。
稼働の10%を技術に捧げる「帰社日」とフラットな組織の力
エクスモーションという組織を語る上で欠かせないのが、徹底した現場主義と学びの文化である。社内には「社長室」すら存在せず、物理的にも精神的にも壁がない。権力や声の大きさではなく、「技術力」や「面白いことを追求していること」が最もリスペクトされるフラットな環境が保たれている。
この文化を象徴するのが、月に2回設けられている「帰社日」という制度である。コンサルタントはクライアントの現場に深く入り込むことが多いが、この日は必ず自社に戻り、仲間と顔を合わせる。各自が抱える課題の共有や、最新技術の研究発表、さらには自分が突き詰めたいテーマについてのディスカッションが活発に行われる。
芳村氏:「経営的な視点で見れば、帰社日は売上が10%落ちることを意味します。しかし、私たちはこれを『10%の投資』と定義しています。現場に埋没しすぎると、お客様と同じ視点しか持てなくなってしまう。一歩引いて、自社の知見を客観化し、仲間と切磋琢磨することで、次にお客様の前に立つときの付加価値が何倍にもなるのです」
この「仕組み化」の思想は、バックオフィスや営業部門にも浸透している。経験や勘といった属人的な「暗黙知」に頼るのではなく、ソフトウェア開発のモデリング手法のように仕事を「形式知」として可視化し、再現性を高める努力が全社を挙げて行われている。この組織としての知的体力が、少数精鋭でありながら常に業界の付加価値を生み出し続ける仕組みなのだ。
未来を創るエンジニアたちへのメッセージ
最後に、挑戦を志す若い世代や、起業を目指す人々へのメッセージを求めたところ、芳村氏は次のように答えてくれた。
芳村氏:「ソフトウェアの技術が好きで、自分のやりたいことを追求していきたい人。私たちは、そういう人が正当に評価され、幸せになれる場所でありたいと考えています。単に製品を広めるだけでなく、その裏側にある『技術そのもの』を極めることに喜びを感じる人と、これからの転換期を一緒に楽しんでいきたいですね」
AIという荒波を乗り越え、技術の力で日本のモノづくりの未来を塗り替えていく。エクスモーションの挑戦は、これからも「見えないソフトウェア」に確かな形と価値を与え続けていく。その飽くなき探究心は、日本の産業界全体にとっての大きな希望となるだろう。
記事要約
- 事業の核心:自動車や家電等の組み込みソフトウェア開発に特化したコンサルティングを展開。複雑なコードやプロセスを可視化し、品質と生産性を向上。
- 創業の背景:複写機業界の高度な開発知見を全産業へ展開するため、2008年に設立。「エンジニアが主役になれる会社」を理想に掲げる。
- 逆境の克服:創業直後のリーマンショックを「教育・人材育成コンテンツ開発の投資期間」と捉え、自社のナレッジを体系化。これが後の急成長の足掛かりとなった。
- AI時代の展望:人がコードを書かない時代の到来を見据え、AI活用による「高品質と圧倒的生産性の両立」をリードする次世代の開発手法を確立する。
- 独自の組織文化:社長室のないフラットな組織。稼働の10%を技術研鑽に充てる「帰社日」制度により、常に新しい付加価値を創出する仕組みを構築。
取材企業の概要
- 企業名
- 株式会社エクスモーション
- 本社
-
〒141-0032
東京都品川区大崎2-11-1 大崎ウィズタワー23階
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