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現場を動かす「納得感」の正体とは。株式会社ブリング・グロースが提唱する、数値偏重に依存しない人材育成の真髄
株式会社ブリング・グロース
代表取締役社長 高川 景嗣様
- 目次
「教育がしっかりしていること。それこそが、企業の持続的な成長を支える」と力強く語るのは、石川県金沢市に本社を置く株式会社ブリング・グロースの代表取締役社長、高川景嗣氏である。同社は、中核を担うマネージャー層への1on1トレーニング、一般公開セミナー、独自の研修ゲームの提供、さらには特許取得済みの人事評価システム「SODATELLプラス」の展開など、多角的な人材育成ソリューションを展開している。
労働人口の減少に加え、転職市場の活発化により、せっかく採用した若手や中堅社員が早期に離職してしまう「定着率」の低さが、経営の根幹を揺るがす死活問題となっている。この課題に高川氏と取締役の髙原真紀氏、そして志を同じくする創業メンバーたちは、単なる「知識の提供」に留まらない実務直結型の「マインドと仕組み」の変革を提案している。
根底にあるのは、高川氏自身が20年以上にわたり身を置いてきた、ドラッグストア業界における驚異的な成長の記憶である。
現場で通用しない「机上の空論」への違和感から始まった創業
ブリング・グロースの創業メンバーは、全員が前職を同じくする戦友たちだ。彼らが在籍していたのは、石川県を拠点に急成長を遂げ、今や岩手から愛媛まで全国を網羅する大手ドラッグストアチェーン。高川氏はそこで20年以上のキャリアを積み、同社が地方の一企業から全国規模のトップランナーへと駆け上がるプロセスを経験してきた。
「直近10年以内の成長率は業界でもトップクラス。その躍進を支えていたのは、間違いなく『教育の力』でした」と高川氏は振り返る。中途採用で入社してくるキャリア層からも、一様に「教育が非常にしっかりしている」と驚きの声が上がるほど、その育成環境は徹底されていたという。人を育てる文化が組織に根付いていることが、企業の持続的な成長を可能にする。この確信が、ブリング・グロース設立の原動力となった。
しかし、一歩外の世界に目を向けると、教育現場の現実に高川氏は強い違和感を抱くこととなる。多くの中小企業が外部の教育機関やコンサルタントを導入しているものの、その提供される内容は、現場の泥臭い実務とはかけ離れた「机上の空論」に終始しているように見えたからだ。
高川氏:「綺麗な言葉を並べ、知識を詰め込むだけの研修では現場は一ミリも動きません。私たちがやりたいのは、受講者が現場の課題を自らのイメージとして捉え、実務に即座にリンクさせられる研修です」
その解決策として同社が導入したのが、「ゲーム」を活用した体験型研修である。座学中心の研修では、講師の言葉を「記憶」することに終始しがちだが、ゲームという擬似体験を通じることで、受講者は自律的に考え、試行錯誤し、自らの手で答えを導き出すプロセスを体感する。この「自ら導き出した答え」こそが、翌日からの現場での行動を変える唯一の武器になるのである。
当初、周囲からは「遊びの延長ではないか」という訝しげな視線も向けられた。しかし、一度受講すれば、受講者の顔つきが変わる。暗記に頼らず、自律的な思考が養われることが実感されるにつれ、その評価は確固たるものへと変わっていった。
「満足度アンケート」を捨て、「習得」という本質に殉じる
同社の教育哲学を象徴するのが、「受講者満足度アンケートを取らない」という潔い方針である。一般的に人材育成会社は、例えば【満足度98.3%!】(例)などといった数字を営業資料のトップに掲げる。受講者が「楽しかった」「ためになった」と笑顔で帰ることを一つのゴールに置くのが通例だ。
しかし、高川氏はその風潮に明確に異を唱える。
高川氏:「満足度で研修の良さを測ろうとしたことは一度もありません。なぜなら、研修の目的は受講者を喜ばせることではなく、組織の課題を解決することだからです。私たちは事前に企業の課題を徹底的にヒアリングし、それを解決するために必要な情報と経験を設計します。たとえ研修の内容が受講者にとって耳の痛いものであり、不満足な顔をして帰ったとしても、現場で必要なスキルが習得され、行動が変わったのであれば、私たちの研修は『成功』なのです」
もちろん、受講者が前のめりに参加しなければ学習効果は上がらないため、結果として満足度が高まることは望ましい。しかし、主客転倒してはならないというのがブリング・グロースの譲れない一線だ。「良かった」という感想よりも「具体的にこう実務を変える」という決意を引き出すこと。このストイックなまでの実利主義が、BtoBの厳しい決裁層から支持される理由である。
離職の連鎖を断ち切る「髙原流1on1」の衝撃
研修と並ぶ同社の強力な武器が、取締役の髙原真紀氏が主導する1on1トレーニングである。髙原氏は前職において、累計1,500名もの部下を統括してきた、マネジメントの文字通り「鉄人」だ。
特に彼女の真骨頂は、現代の企業が最も頭を悩ませる「退職」の現場にある。文字起こしデータに刻まれた実績は、驚異的という他にない。髙原氏は3年間で104名の退職希望者と面談を行い、そのうち69名を残留させた。引き留め率は66%。さらに驚くべきは、すでに他社から内定を得て、退職の意志が固まっている社員ですら、彼女とのわずか2時間の面談で「内定を辞退し、今の会社に残る」と決断を翻すケースが続出したことだ。
なぜ、そんなことが可能なのか。高川氏は、髙原氏の面談には単なる「共感」や「説得」を超えた、体系化されたロジックが存在すると説明する。
高川氏:「辞めたいという言葉の裏側には、本人が言語化できていない『不満』や『不安』、そして何より『自分の存在価値への疑念』が隠れています。髙原の面談は、そこを的確に解きほぐし、できないことができるようになるための道筋を示し、『あなたはこの組織にいてもいいんだ』という存在意義を再定義させるのです」
「また、退職希望者は目の前の課題により、中長期的な視点を見失っている場合があります。そこで髙原は俯瞰的な視点を持ち、本人の「将来」にとって何が最善かを考えます。その過程では、ときにあえて厳しい言葉で本音の対話を試みることもありますが、それこそが本質的な向き合い方だと考えます」
髙原氏自身も、自らの仕事の意義を「従業員さんの1ミリの成長が、私たちの最大の喜びです。石川県には規模は小さくとも素晴らしい企業がたくさんあります。そこから人がいなくなれば、事業の継続さえ危うくなる。だからこそ、経営者と従業員の間に立ち、双方が歩み寄れる土壌を作る伴走者でありたいのです」と語る。
この「1ミリの成長」への執着が、疲弊した現場のマネージャーたちに希望を与えている。
コロナ禍という逆境が生んだ、評価制度の大きな転換点
ブリング・グロースの歩みは、決して平坦なものではなかった。創業は2019年。まさにその翌年、世界中を新型コロナウイルスの感染拡大が襲った。
「2020年の5月、リアルな研修の予定はたった一件しか残りませんでした」と高川氏は苦笑混じりに振り返る。しかし、この「動けない期間」が、同社の次なる飛躍の準備期間となった。高川氏が着手したのは、従来の評価制度のあり方を根底から見直す「評価システム」の開発であった。
高川氏は、日本企業に蔓延する「数値偏重」の評価制度に強い危機感を抱いている。
高川氏:「多くの日本企業が売上目標やミスの数など、あらゆるものを無理やり定量化し、その達成度で社員を格付けしています。しかし、これは多くの場合、従業員にとってネガティブな要因にしかなっていません。モチベーションを高めるための仕組みが、皮肉にも従業員を追い詰め、離職を促進させる要因になっているのです」
民間調査の中には、自社の評価制度に対して満足している労働者は3割に満たないというデータがある。高川氏は、アメリカの「フォーチュン500」企業の一部は、すでに10年以上前から従来の業績評価制度を廃止し、より対話と成長に重きを置いた手法へシフトしているという。
高川氏:「大手がやっているから、厚労省が推奨しているから。そんな理由で導入された形骸的な評価制度が、日本の現場を疲弊させています。私たちは、数値を追うための評価ではなく、その人の特性を理解し、強みを伸ばすための『成長支援型』の評価システムを広めたいと考えたのです」
こうして誕生したのが、特許を取得した同社独自の評価システムだ。これは単なる点数付けのツールではない。社員の特性をレーダーチャートで可視化し、上司と部下が「何ができて、何が足りないのか」を共通言語で語り合えるように設計されている。
評価システムを「無料開放」する、壮大なパートナーシップ戦略
ブリング・グロースの戦略が際立っているのは、この特許取得済みの評価システムを、パートナー企業に対して「無料」で提供している点だ。自社で独占するのではなく、なぜ広く開放するのか。そこには高川氏の、日本全体を見据えた長期的な構想がある。
高川氏:「私たちだけで全国の企業を直接支援するには限界があります。しかし、世の中には中小企業の経営者から厚い信頼を得ている社会保険労務士やコンサルタントの方々がたくさんいます。今後、給与計算や定型業務がAIに置き換わっていく中で、彼らもまた『人材育成』という付加価値を顧客に提供する必要に迫られています。ならば、私たちのシステムとロジックを彼らに使ってもらえばいい」
石川県だけでなく、北海道から沖縄まで。ブリング・グロースの考え方に共鳴するパートナーが増えれば、日本中の企業が「自走」して人材を育てられるようになる。自社の利益を優先するのではなく、日本の労働生産性の向上という大きな目的のために、仕組みをシェアする。このオープンな姿勢こそが、同社が「注目企業」として名指しされる所以であろう。
教育の力で「ミスマッチのない社会」という未来を創る
インタビューの終盤、話題は5年、10年先の未来へと及んだ。高川氏が描くビジョンは、企業という枠組みを超え、「社会のインフラとしての教育」にまで広がっている。
高川氏:「現在の採用市場は、非常に歪な構図になっています。初めて就職活動に臨む学生に対し、10年以上の経験を持つ人事のプロが対峙する。この圧倒的な情報の非対称性が、結果として多くのミスマッチと早期離職を生んでいるのです」
この課題を解決するため、高川氏は自社の評価システムを、将来的には学校教育の現場にも導入したいと考えている。学生時代から、先生や部活動のコーチがその子の特性を独自のシステムで可視化する。その蓄積されたデータを基に、企業とのマッチングを行う。そうすれば、「どの会社が自分に合っているのか」を感覚ではなく、客観的な特性(レーダーチャート)に基づいて判断できるようになる。
高川氏:「労働人口が減っていく以上、限られた人材でAIを活用しながら生産性を高めていくしかありません。そのためには、一刻も早く仕事の面白さを知り、自走できる人間を増やす必要があります」
高川氏が目指すのは、誰もが自分の居場所と役割を見つけ、1ミリの成長を積み重ねていける社会だ。
株式会社ブリング・グロース。彼らが石川県から発信する「教育の熱」は、冷え込んだ人材育成のあり方に変化をもたらし始めている。
※ 自社の評価制度に対して満足している労働者は3割に満たない
Job総研 「2023年 人事評価の実態調査」
※ アメリカの「フォーチュン500」企業の一部は、すでに10年以上前から従来の業績評価制度を廃止し、より対話と成長に重きを置いた手法へシフト
引用:エム・アイ・アソシエイツ株式会社 代表取締役 松丘啓司 著 「人事評価はもういらない」(ファーストプレス刊)
記事要約
- 実務直結の体験型研修:大手チェーンでの急成長を支えた経験に基づき、知識の詰め込みではない、ゲームや実戦を通じた「現場で使える」研修を提供。
- 習得重視の哲学:表面的な「満足度アンケート」を廃止し、受講者の行動変容とスキルの確実な習得を研修の成功定義に置く。
- 退職を食い止める1on1:1,500名の部下を率いた取締役・髙原真紀氏のロジックにより、他社内定済みの社員さえも翻意させる圧倒的な定着支援を実現。
- 数値偏重評価への挑戦:従来の数値目標に依存しすぎた評価制度の弊害を指摘。個人の特性を可視化し、成長を促す特許取得済みのシステム「SODATELLプラス」を展開。
- パートナーシップによる全国展開:評価システムを無料開放し、社労士などの外部パートナーと連携することで、日本全体の労働生産性向上と自走組織の育成を目指す。
- 教育インフラへの展望:学校教育と企業の評価基準を接続させ、社会進出時のミスマッチを構造的に解消する未来構想を推進。
取材企業の概要
- 企業名
- 株式会社ブリング・グロース
- 住所
-
〒921-8842
石川県野々市市徳用3丁目369番地 つばきの郷B棟001号
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