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中古住宅の「価値の見える化」――価値住宅株式会社・髙橋正典氏が描く、社会貢献の未来
価値住宅株式会社
代表取締役 髙橋 正典様
- 目次
日本の住宅市場が大きな転換期を迎えている。長らく「新築至上主義」が続いてきたこの国で、中古住宅を単なる「古家」としてではなく、適切な維持管理と評価に基づいた「資産」として再生させようと奔走する人物がいる。不動産売買(主に仲介)、リフォーム・建設、フランチャイズの三本柱で展開する、価値住宅株式会社の代表取締役、髙橋正典氏である。
不動産業界という、ともすれば情報の非対称性が強く、不透明さが指摘されがちな領域において、髙橋氏が掲げるのは「価値の見える化」だ。なぜ彼は、あえて流動性が低く、評価の難しい中古住宅市場を主戦場に選んだのか。そこには、創業以前から抱き続けてきた業界への危機感と、日本の住宅文化を根底から変えたいという強い「想い」があった。
さらにその想いは、単なる売買の枠を超え、現代社会が抱える「空き家問題」や「居住支援」、さらには「就労支援」へと広がりを見せている。
業界の「当たり前」への違和感から始まった挑戦
髙橋氏は新築デベロッパーの役員だった。そこで彼が直面したのは、売買のスピードや手数料の最大化を優先し、住宅そのものの「質」や「将来価値」が二の次とされる業界の慣習であった。
当時の日本における中古住宅評価は、築年数によって一律に価値が決まる、いわば「減価償却」の論理が支配的であった。どんなに丁寧にメンテナンスを施し、大切に住み継がれてきた家であっても、築20〜30年程度で建物価値はゼロに近いと見なされる。この現実に、髙橋氏は強い違和感を覚えたという。
家を建てる人の想いや、その後の維持管理の努力が報われない市場であってはならないとの想いが、価値住宅創業の原動力となった。彼は、建物のコンディションを客観的に定期点検し、住宅の「履歴情報」を売買のプロセスに組み込むことを決意したのである。
「価値住宅」という社名に込められた覚悟
髙橋氏が社名に冠したのは「価値住宅」という、ストレートでありながら非常に重みのある言葉だ。これは単に「価値のある家を売る」という意味ではない。「住宅に適切な価値を与え、それを維持・向上させる仕組みを作る」という、市場そのものへの挑戦状でもあった。中古流通の現場と改修・維持管理を同一線上で扱う体制が、同社の思想を実装する土台になっている。
特筆すべきは、価値住宅が仲介という立場でありながら、購入後10年間の維持管理を“無償”で提供している点だ。定期点検、24時間対応のコールセンター、そして住宅履歴情報の電子保管まで含め、これらに追加費用はかからない。
手間のかかる建物点検や、住宅の状態を記録・共有する取り組みは、効率を重視する当時の仲介ビジネスの常識とは違ったが、髙橋氏は目の前の仲介手数料ではなく、数十年後の日本の街並みと、そこで暮らす人々の資産価値を守りたいと考えたのだ。
髙橋氏は、この考え方を端的に「買うは一瞬、住むは一生」という言葉で表現する。購入は数か月で決まる一方、住まいは何十年にも及ぶにもかかわらず、業界の多くが「買う瞬間」にしか関与していない現状に疑問を投げかける。
その問題意識から、価値住宅は自らを「住宅のかかりつけ医」と位置づけている。
住宅価値を可視化する
価値住宅社の大きな特徴は、単なる物件紹介に留まらない。
中古住宅購入の現場では、購入者の6〜7割が何らかのリフォームを行うという。しかし、多くの不動産会社は建設業免許を持たず、500万円を超える工事を自社で請け負うことができない。その結果、購入後に初めて「想定以上の改修費がかかる」ケースも少なくない。価値住宅は建設業を併せ持つことで、物件選定の段階からリフォーム費用を含めた総額提案を行う独自のサービス「さがつく」という物件ポータルサイトも運営している。
この「さがつく」では、物件金額とリフォーム費用が合算して掲載しているので、住宅購入後の予算オーバーを回避できるという。リフォームプランは同社の専門部署スタッフがプランニングし間取り図とVRを作成。見積もりも工事現場のプロフェッショナルが実際に掛かる金額を算出する徹底ぶりだ。「立地が良ければ、建物に2,000万円かける選択肢もある」といった判断を、購入前に可能にする点が同社の実務的な強みだ。
髙橋氏は「仲介手数料をもらって終わり、では仕事をしたことにならない」と語る。
不具合の修繕やリフォーム工事が発生すれば実費は必要だが、“困ったときに誰に相談すればいいか分からない状態”をつくらないことを最優先にしている。さらに、その住宅がどのようなメンテナンス履歴を持ち、どのような保証が付帯しているかという「住宅履歴情報」の蓄積である。これにより、将来その住宅を再び売却する際にも、エビデンスに基づいた正当な評価が可能となるのだ。
住宅の状態を根拠とともに説明できる取引が増えれば、結果として適正な評価に基づいた売買につながる。髙橋氏は「一社の利益以上に、市場全体が健全化することが重要だ」と強調する。
社会の不条理を解消する、空き家対策と居住支援の融合
髙橋氏の視線は、優良な中古住宅の流通のみならず、社会問題化している「空き家」にも向けられている。取材の中で彼が熱を込めて語ったのは、空き家対策と「家を借りにくい人たち」をマッチングさせるという、極めて社会性の高い取り組みだ。
現在、日本には膨大な数の空き家が存在する一方で、家を借りにくい層が存在する。オーナー側も借りづらい層への住まい提供の難しさや偏見から貸し渋り、借りたい側は住む場所が見つからないという、深刻なミスマッチが起きているのだ。
髙橋氏はこのミスマッチの解消に挑んでいる。同社が介在することで、空き家のコンディションを適切に管理・改修し、借りづらい人と空き家の間にあるハードルを、どのように越えられるかを模索。そうすることで、放置されていた空き家を「住まい」として再生し、家を必要とする人々へ届ける。これは単なる不動産ビジネスの枠を超えた、セーフティネットとしての役割を果たしているといえる。
誰もが輝ける場所を。障害者雇用への挑戦
さらに髙橋氏の想いは、住宅の枠組みを超えて「人」の支援へと波及している。それが、働き場を見つけにくい障がい者、とくに精神疾患のある障がい者の雇用創出だ。
注目すべきは、この取り組みがコロナ禍以前の2017年に始まっている点だ。当時はテレワークという言葉自体が一般化しておらず、社員11人の中小企業が、遠隔で障がい者を雇用する事例は極めて稀だった。それでも髙橋氏は「働きたい人がいて、人手が足りない現実があるなら、間にあるハードルを越えればいい」と考えたという。
不動産業界は膨大な事務作業をはじめとした、多種多様なタスクが存在する。髙橋氏は、これらの業務を切り出し、ルーチン作業や前述の「さがつく」サイトで掲載するリフォームプランのVR制作など、障害を持つ人々がそれぞれの特性を活かして働ける環境と仕事を整備している。「住宅」というハードを整えるだけでなく、その周辺に生まれる「仕事」を通じて、社会的な自立を支援する。
こうした取り組みからは、不動産を通じて「住む人」だけでなく「働く人」も含めた幸せを目指すという、髙橋氏の姿勢がうかがえる。障害者雇用を単なる法定雇用の達成やボランティアとして捉えるのではなく、組織に欠かせない「力」として組み込む。この姿勢こそが、価値住宅が多くのステークホルダーから信頼を集める理由の一つだろう。
情報の可視化と「人の目」が融合する未来
価値住宅は、住宅履歴情報の電子化などを通じて情報の整理と共有を進めている。デジタルデータと人による点検・提案を組み合わせる“ハイブリッド”こそが、同社の目指す不動産取引の姿だ。
住宅の「性能」を正しく評価し、価値を可視化する重要性は増すばかりだ。価値住宅が提供する情報は、単なる物件概要を超え、その家が「どのような状態にあり、今後どのような維持管理が必要なのか」という、生活者の切実な問いに答えるものとなっている。
「期待の合意」を軸に据えた組織のあり方
髙橋氏が組織運営で口にした言葉が「期待の合意」だ。上が期待を示し、相手が応えたいと思える状態をつくる。トップダウンに寄りすぎず対話を重ねる姿勢が、住宅の価値継承から就労支援まで、同社の取り組みを支えている。
この相互の意思確認こそが、同社の意思決定の前提となっている。急成長を遂げる企業のリーダーは時としてトップダウンでの意思決定が目立つこともあるが、髙橋氏の場合は、ステークホルダーや従業員との対話を重んじている様子がうかがえる。
髙橋氏は、起業を目指す若者やビジネスマンに向けて、社会に存在する「不条理」や「不透明さ」に目を向け、解消することこそがビジネスの本質だと示す。
住宅流通の仕組みを変えるだけでなく、不動産というフィルターを通じ、社会の歪みを正そうと試みている髙橋氏。「期待の合意」に基づくリーダーシップと、社会の「不」を解消しようとする眼差しが、日本の住宅市場にどのような変化を刻み続けていくのか。その挑戦の行方を、今後も注視していきたい。
既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備の推進
国土交通省:既存住宅・リフォーム市場の活性化に向けた取組み
記事要約
- 創業の理念と背景:代表の髙橋正典氏は、築年数だけで価値が決まる日本の中古住宅市場に疑問を抱き、住宅履歴情報を重視する「価値住宅」を創業。住宅を「住み継がれる資産」へと変えることを目指している。
- 住宅価値の可視化:独自の「住宅履歴情報」の活用により、エビデンスに基づいた透明性の高い取引を実現。仲介+維持管理+履歴情報で「買った後」に寄り添う。
- 空き家対策と居住支援の融合:放置された空き家を再生し、高齢者やひとり親世帯など「家を借りにくい人たち」へ提供。不動産ビジネスを通じて社会のセーフティネット構築に寄与している。
- 障害者雇用による社会貢献:不動産実務から業務を切り出し、障害を持つ人々の就労を支援。居住と就労の両面から、社会的な「不」の解消に挑んでいる。
- 経営哲学と対話の姿勢:トップダウンのみならず、周囲との「期待の合意」を重んじる経営を志向。社会課題の解決をビジネスの本質に据え、持続可能な企業活動を追求している。
取材企業の概要
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