注目企業特集
脱毛業界の負を払拭する「誠実」の力。プロ経営者・泊剛史が描く、サロンから総合美容コミュニティへの転換
株式会社リンリン
代表取締役 泊 剛史様
- 目次
かつて「前受金ビジネス」の歪みにより、相次ぐ倒産や不透明な広告展開が社会問題となった脱毛業界。その負のイメージが根強く残る中で、圧倒的な顧客支持を背景に急成長を遂げている企業がある。全国に直営店を展開する株式会社リンリンである。
同社の舵取りを担うのは、ドイツ企業や日本大手小売りのジョイントベンチャーで手腕を振るってきた「プロ経営者」の泊剛史氏だ。創業社長ではない彼が、なぜあえて逆風の吹くエステ業界へと身を投じたのか。そして、スタッフの新しいサービス導入への戸惑いを乗り越えて断行した「脱毛からの脱却」の真意とは何か。日本経済の次代を担うリーダーの想いと、同社が挑む「360度美容」の全貌に迫る。
異色のキャリアを持つ「プロ経営者」が選んだ再建の道
株式会社リンリンの代表取締役、泊剛史氏の経歴は異色である。直近ではイオンとドイツ企業のジョイントベンチャーで4年半にわたり社長を務め、ビジネス規模を5倍に拡大させた実績を持つ。そんな彼が次なるステップとして選んだのが、プライベートエクイティファンド(PEファンド)から変革を託されたリンリンであった。
「地域に貢献しており、さらなるポテンシャルを秘めた企業でビジネスを促進したい」との想いを胸に、2024年10月、泊氏は同社代表に就任した。
入社して彼が真っ先に感じたのは、現場スタッフの熱量の高さであった。全国のスタッフとヒアリングを重ねる中で、泊氏は確信を得る。「これだけモチベーションの高いスタッフがいるのなら、方向性を少し変えてあげるだけで、この会社は必ず飛躍する」と確信したのである。
当時のリンリンは、あくまで「脱毛サロン」という枠組みの中にいた。しかし泊氏が描いたのは、脱毛という「手段」を超えた、顧客をトータルで美しくする「総合美容」の姿であった。
「脱毛からの脱却」に伴う葛藤と、現場の意識改革
泊氏が進めた改革の第一歩は、フェイシャルサービスや物販事業の強化であった。特に、韓国企業と提携して投入した独占販売のスキンケア商品は、売上増の大きな牽引車となった。
しかし、改革は平坦な道ではなかった。長年「脱毛のプロ」として自負を持っていた現場スタッフからは、戸惑いの声が上がったという。「自分たちにフェイシャルのような高度な施術ができるのか」という不安の声に対し、泊氏は粘り強く対話を重ねた。
泊氏:「トレーニングさえ積めば、必ずお客様に付加価値を出せる。そのための環境は会社が全力で整える」
結果、サービスの統一化を図るため一気に全店舗展開へと踏み切った。この顧客ニーズにコミットする姿勢が、前期比20%増収し利益面でも改善するという驚異的な成果に結びついたのである。
広告費に頼らない「驚異の紹介率60%」の正体
エステ業界において、新規顧客獲得のための広告費は経営を圧迫する最大の要因の一つである。しかし、リンリンの広告費は他社のわずか4分の1から5分の1に過ぎないという。
その驚くべき効率性を支えているのは、新規顧客の約60%を占める「紹介」である。Googleの口コミ評価は5点満点中、全店平均で4.8。これは業界でもトップクラスの数値である。泊氏自身も自社の会員として毎週店舗に通い、客観的な視点でサービスを見守っている。
「お客様とスタッフの距離が、驚くほど近い。何でも話せる環境、コミュニケーションの質の高さが、この信頼を生んでいる」と泊氏は分析する。
その信頼を象徴するエピソードがある。ある顧客は10社の脱毛サロンを渡り歩き、決めきれないまま11社目にリンリンを訪れた。その際、スタッフは自社の強みだけでなく、あえて「課題」や「弱点」までも正直に伝えたという。「良いところも悪いところも、すべてディスクローズする誠実さ」が決め手となり、その顧客は「ようやく最高のサロンに出会えた」と入会を決めた。スタッフからこのエピソードを聞いた泊氏は涙が出そうになったという。
泊氏:「医療脱毛は毛を抜くことが目的だが、美容脱毛は人をきれいにすることが目的。脱毛はあくまで手段。私たちは総合的な美容サポートを行う」
この本質的な姿勢が、広告に頼らずとも顧客が顧客を呼ぶ「最強の集客構造」を作り上げているのである。
ヒエラルキーを廃し、役割が人を育てる
スタッフを抱える組織運営において、泊氏が最も重視しているのは「階層(ヒエラルキー)の排除」である。
店舗ビジネスの多くは、多層的な階層構造によりトップの想いが現場まで届かなくなる弊害を抱えている。泊氏はこの壁を壊し、社長と現場スタッフの距離が最も近い組織を目指している。「スタッフのモチベーションは必ずお客様に伝導する。だからこそエンプロイー・マネジメント(従業員管理)が何より重要だ」と説く。
採用においても、スキル以上に「柔軟性」を重視する。変革期にある組織において、過去の成功体験に固執する「頑固さ」は成長を阻害する。物事をポジティブに捉え、フレキシブルに動ける人材こそが、今のリンリンには必要なのである。
また、泊氏は「プロ経営者」としての自身の去り際も見据えている。「いつか自分がこの会社をバリューアップして去った後も、組織が自走できるようにスタッフをモチベートしている。役割が人を成長させると信じている」
その言葉通り、最近では生え抜きのスタッフを役員に抜擢するなど、次世代リーダーの育成にも余念がない。
未来への挑戦「リンリン・ゴー」と「360度美容」
泊氏が掲げる次なるビジョンは、店舗の枠を超えた「美容サービス・コミュニティ」の形成である。「きれいになりたい」という目的を共有する会員に対し、脱毛やフェイシャルといった施術だけでなく、例えば韓国への美容ツアーの企画など、リンリン会員限定の特別な体験価値を提供していく構想だ。
さらに、本格始動したのが「リンリン・ゴー」という訪問美容サービスである。仕事や育児で店舗に来られない母親、障害を持つ方、高齢者、スポーツ選手。そうした「美しくなりたいが店舗に行けない」層に対し、エステティシャンが指定の場所まで出向く。「360度美容」というコンセプトのもと、あらゆる角度から顧客の美をサポートするこの新事業には、すでに多くの問い合わせが寄せられている。
「リンリン・ゴーを、本体のサロン事業と同じ規模まで成長させることが私の夢だ」と語った泊氏の挑戦は、既存のサロンビジネスの定義を書き換えようとしている。
業界の負を正し、誠実に向き合う責任
インタビューの終盤、泊氏は脱毛業界が抱える「闇」について、厳しい表情で言及した。大手の倒産により浮き彫りになった「前受金ビジネス」の問題。顧客から預かった資金を施術前に広告費として使い果たしてしまう経営手法。そして、一部に見られる過度にセクシャルな広告表現である。
「そうした負のイメージを、私は心底嫌っている。業界全体の信頼を損なう行為は一切やらない。本当に誠実にお客様と向き合うこと。それだけが、業界を再生させる唯一の道だと思っている」と言葉に力を込める。
最後に、起業や新たな挑戦を志す人々へのメッセージを求めると、自身の波瀾万丈なキャリアを振り返りながらこう語った。
泊氏:「失敗を恐れてはいけない。私もクビを経験したことがある。しかし、ビジネスマンは失敗を重ねることで大きくなる。ピボット(方向転換)を繰り返し、そこから学ぶことが重要だ。失敗と学びを繰り返す先にしか、本当の成長はない」
『誠実』を軸に顧客と向き合う——その姿勢こそが、リンリンの現在地を象徴している。プロ経営者・泊剛史のもと、この会社がエステ業界の「新たな標準」を打ち立てる日は、そう遠くないだろう。
記事要約
- 経営体制の刷新:2024年10月、プロ経営者の泊剛史氏が代表に就任。大手小売りのジョイントベンチャーを急成長させた知見を投入。
- 「脱毛からの脱却」:脱毛単体のサービスから、フェイシャルや独占販売のスキンケア商品を含む「総合美容」へ事業ドメインを拡大。
- 驚異の集客効率:新規顧客の約60%が紹介経由。Google口コミ4.8という圧倒的な顧客満足度を背景に、広告費を他社の4分の1以下に抑制。
- フラットな組織作り:階層構造を排除し、現場の声を直接経営に反映。スタッフの柔軟性とモチベーション向上を軸とした組織運営。
- 新事業「リンリン・ゴー」:店舗に来られない層(育児中、高齢者、障害者等)へ向けた訪問美容サービスを開始し、「360度美容」の実現を目指す。
- 業界の健全化への挑戦:不透明な「前受け金ビジネス」や不適切な広告を否定。誠実な情報開示と運営により、業界全体の信頼回復を目指す。
取材企業の概要
- 企業名
- 株式会社リンリン
- 住所
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〒456-0002
愛知県名古屋市熱田区金山町2-1-1 ソルクス金山9階
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